S P E C I A L

川井千秋役:奈緒さん×原案・脚本:野島伸司さん
スペシャルインタビュー(後編)

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奈緒さんは『ワンダーエッグ・プライオリティ』という作品をどのようにご覧になりましたか?
奈緒
とっても楽しんでいます!(笑)。
野島さんが書いていらっしゃることはもちろん念頭にあるのですが、それを抜きにしても第1回から毎回、すごく面白いアニメーションだなと思って観ています。
戦闘シーンの迫力もそうですし、毎回の敵の存在もとても新しいなと思って観ています。そうしたファンタジーな部分と、4人の女の子たちの抱えている痛さや苦しさが、この先にどうなるのだろうと、毎話重ねていくたびにとても気になります。
最初は、それぞれに生き返らせたい人がいるという大きな目標があったのですが、本当はそのバックボーンに、私達に見えていないストーリーがあるんじゃないか、というさまが見え始めています。
このストーリーと戦闘シーン、それぞれの4人の女の子たちの抱えている孤独と弱さと強さと魅力と、全部の角度からとても楽しめるアニメーション作品だと思っています。
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野島さんはいかがでしょう?
野島
毎回の出来がすばらしく、僕もいち視聴者としてとても楽しんでいます。
そして、脚本家として僕はとてもツイているなと思っています。『ワンダーエッグ・プライオリティ』という作品に対して、若林監督をはじめとした多くの有能なクリエイターが集結してくださいました。キャラクターデザインも背景もすばらしいですし、ミトさんとDÉ DÉ MOUSEさんが作ってくれた音楽もハイクオリティです。
そう考えると、世界に誇るこの国のエンターテインメントはやはりアニメなのだと見せつけられた感じがします。
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奈緒さんはご自身で役作りの方法論というものは固めていますか?
奈緒
役柄や現場によって変わることはありますが、基本的にはその人物のプロフィールを自分で作ることが多いですね。
その人物になぜその名前が付けられたのか、学生時代にどれくらい友達がいたとか、どんな部活に入ってたんだろうと、台本に書かれていないところを、自分で埋めてキャラクターシートを作ります。
その人を一番知ってる親友みたいな立場に自分を置くんです。
そして、それを現場に入る前に一旦破棄して、あとは現場での監督の演出を受け止めるという感じです。
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今回、川井千秋を演じるにあたって手がかりになったセリフや動作にはどんなものがありましたか?
奈緒
第7回の最後で千秋が言う「どうせ、リカも私を捨てるんでしょ」というセリフです。
千秋のそれまでの奔放な言動は子どもっぽく、リカを傷つけてしまうようなこともたくさんありましたが、そうした中で、このセリフは最も彼女の素の部分というか、弱い部分を見たような気がしたんです。
どこか自分から突き放しているようでいて、それでも誰かに依存しないと生きていけないと思っている人なんだろうなと感じました。
――
野島さんは千秋のような人物を描くのは以前から得意とされてきましたか?
野島
僕は昔から、母親とのふれあいを書くのが上手くないとプロデューサーに言われてきたんです(笑)。母親が出てこなかったりとか、出てきても良い母親ではなかったりする。今回の千秋も、母親という捉え方で書いているわけではないんですよね。
奈緒さんは芝居の引き出しが多いので、ちょっとやさぐれた部分だったり孤独感だったりといった部分が見え隠れするように演じていただけたらと思いました。
親子関係が前提にあるというよりも、そういう部分を持った一人の女性である、という感覚ですかね。
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川井リカ役の斉藤朱夏さんとの掛け合いシーンもありました。楽しめましたか?
奈緒
楽しかったです!
最初に入った時に「いろいろ足を引っ張るかと思いますが、頑張ります」とご挨拶したところ、とても優しく気さくにお話をしてくださり、最初の掛け合いでは、朱夏さんとのお芝居をすること自体に感動してる自分がいました(笑)。
食事中に掛け合いをするシーンでは食べながらとか飲みながら話しをするという朱夏さんのお芝居を隣で聞かせていただいて、終わった後は感動してしまいました。
そこでも芝居を上手く引き出してくださって、私も飲むときの芝居で実際にちょっと音を出してみようと、見よう見まねですが挑戦させて頂きました。
2人でのシーンは、あまり明るい場面ではなかったのですが、芝居の掛け合いとしてすごく楽しませていただきました。
――
実写の場合はご自身の「間」で演じることができますが、アニメの場合は「間」が決まっている中で演じることになります。奈緒さんはそこに難しさは感じましたか?
奈緒
最初はとても感じました。
普段の実写のお芝居ですと、「自由に動いてください」と言われて、そこに皆さんが合わせてくださるという形が多いのですが、今回は先に尺が決まっていて、そこに私が合わせていくことになりました。
その違いに最初は、大丈夫かなと思っていたのですが、映像を見ていくと、ここはキャラクターがこういう気持ちで、こういうふうに言ってほしいんだなということが見えてきて、現場でもとても的確な演技指導をしてくださったので、お芝居はしやすかったです。簡単なことではありませんが、機会があればまたチャレンジしたいです。
――
野島さんは第7回をご覧になって、想像されていた以上のお芝居は聞こえてきましたか?
野島
最初は、「ああ奈緒さんの声だな」と思っていたのですが、途中から考えずに観ることができるようになったので、役を掴んで溶け込んでくれたんだろうなと感じました。
奈緒
ホッとしました。言葉が出ません(笑)。
今日お会いしたときから感想を聞けていなかったので、少しほっとしました。
――
溶け込むっていうのは本当に役者冥利に尽きますよね。
奈緒
そうですね。自分自身でも聞こえてくるのは自分の声なので、そこが皆さんにどのように受け取っていただけるか、不安はあったのですが、「溶け込んでいた」とおっしゃっていただけたので嬉しいです。
――
今回、声優を務められたという経験は奈緒さんの役者人生にとってどんな位置づけに?
奈緒
私自身も、「自分の声ってどういうふうに聞こえてるんだろう」と、自分の声にフォーカスするということを今回の経験をきっかけにとても考えました。
それはこの話数を録り終えてもまだ思っています。映画やドラマの現場に戻ったときも、考えてみると「さっきのお芝居の声がよかったです」と言われることがあるんです。
お芝居の中でそういう声が出ると、「どういう気持ちで演じてそんな声が出たんだろう?」というところに繋がったりします。そういうことに気づけたのは大きかったですね。今後も自分の音での表現に丁寧に向き合っていきたいなと思うきっかけになりました。
――
最後に視聴者にメッセージをお願いします。
野島
若林監督は本当に細部まで緻密にというか、偏執的にこだわっているんです(笑)。
何度も繰り返し観ても発見があり、このクオリティを出すためには監督以下現場のスタッフが本当に頑張ってくれていると思います。
実写に近いようなカット割りをしてくれているので、僕も個人的にとても見やすく、普段アニメをあまり観ていない方も、ちょっと覗いてみると日本のアニメのクオリティの高さを感じると思います。
僕の物語だから、とは関係なしに、ぜひ一度ご覧になっていただければと思います。