S P E C I A L

音楽対談 DÉ DÉ MOUSEさん×ミトさん(クラムボン)

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お二人が本作に携わる経緯から教えていただけますか?
ミト
3〜4年くらい前から、この作品でも音楽プロデューサーを務めたアニプレックスの山内(真治)さんとは、「劇伴で何か面白いことをやりたいですね」というお話をしていまして、その中でコライト(共作)の話題になったときに僕が挙げたのがDÉ DÉ MOUSEくんだったんです。
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コライトで劇伴を作ることについてミトさんはどんな考えをお持ちでしたか?
ミト
僕は以前から「得意なことは得意な人に任せて、もっと伸び伸びやればいいと思う」と言ってきたんですよ。
EDMの界隈ではコライトで作ることが随分前から当たり前のようになって、その手法がK-POPにも移ってきました。その先駆けであるヒップホップのジャンルではもちろん、当然のように行われています。
僕自身、TO-MAS SOUNDSIGHT FLUORESCENT FOREST(※1)の活動をしたり、『心が叫びたがってるんだ。』では横山克くんと一緒に作ったりしてきました。
クリエイティブって、つい個人の主観オンリーで作りがちなのですが、それは色んな意味で負担が大きいんですよ。ことアニメの音楽シーンは、日本のなかで最もクリエイティブなことができる現場だと思っていまして、もっとコライトが進めばいいといったことを発言してきたら、だんだんと増えてきました。
そんななかで、DÉ DÉくんはこれまで劇伴を作ったことがなかったので、良い場所を作ってあげられたらいいなと思っていたところ、ラッキーなことに若林監督がDÉ DÉくんのファンだったんですよ。
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若林監督が個人的にDÉ DÉ MOUSEさんの音楽を聴かれていたんですか。
ミト
そのようです。『ワンダーエッグ・プライオリティ』のシナリオを絵コンテに起こす段階で、既に「DÉ DÉくんの曲を使いたい」というイメージがあったそうなんです。
DÉ DÉ
MOUSE(以下、
DÉ DÉ)
アニメーターさんって、作業中に音楽をかけている方が多いそうなんです。
本編のロケハンのときも『same crescent song』(2010年:「A journey to freedom」所収)を聴いていらしたとか。
そんなことを僕は全く知らず、ミトさんに新譜を送って「聴いてください」と連絡した際に、「こっちも連絡しようと思ってたんだよ!」と、お返事をいただきました。その後、山内さんからもご連絡をいただいて、まったくの寝耳に水状態でした(笑)。
ミト
ここで言っておきたいのが、監督がDÉ DÉくんの曲を聴いていたからという理由だけで声をかけたのではなく、彼にはそのときまでに作ってきた音楽の実績があるということです。
ちょっと時間は遡るのですが、DÉ DÉくんのアルバムで『farewell holiday!』(2015年)という作品がありまして、これは彼がそれまでやっていたダンスミュージック的な音楽から、突然映画の劇伴のようなアルバムを作り上げたという挑戦作でした。DÉ DÉくんが映画音楽やゲーム音楽が好きだとは聞いていたけど、まさかここまで振り切るとはというくらいのオーケストレイティブだったんですよ。
「この人は本気で劇伴をやりたい人なんだな」と思って、僕は聴いて即座に「こんなアルバム出す人間が日本にいるとは思わなかった」と、SNSで激賞しました。
DÉ DÉ
ミトさんのおかげでDJ界隈だけでなく、バンドの方たちにも知ってもらえたり、さらに砂原良徳さんが彼の界隈の方達にもオススメしてくださったり、とても光栄でした。
ミト
もう、やってることが2000年代のウェンディ・カルロス(※2)さんですよ。
打ち込みをベースにここまでオーケストレイトできる人って、ゲーム音楽界隈の方か劇伴専業の作家くらいなんですが、それをポップフィールドとダンスミュージックの両方にアップリフティングしたのはちょっと衝撃的だった。
DÉ DÉ
僕は音楽理論をまったく知らなくて、感覚だけでずっと作ってきたんです。
子供の頃に聴いたルロイ・アンダーソン(※3)のワクワクする音楽とか、フィル・スペクター(※4)のウォールオブサウンドの感じを自分なりに解釈して、彼らが一緒に童謡をアレンジしたらどうなるかをテーマに作りました。
それが全部伝わったことが本当に嬉しかったですね。
ミト
DÉ DÉくんがこうやって作っていたことを知っていたのは、本当にコアな音楽ファンだけだったんですよ。
だからもっと早くから劇伴のシーンに入るべきだと思っていました。
山内さんには「僕はバックアップでいいから、DÉ DÉ くんの楽曲やトラックのプレゼンテーションができるような感じのフォーマットを作っていこう」みたいな話をして、ミーティングが始まりました。
――
作品をご覧になっていかがでしたか?
DÉ DÉ
『ワンダーエッグ・プライオリティ』の映像を観ると、団地や郊外の風景が多く出てきます。僕はこういう景色がとても好きなんですよね。その心の原点にはスタジオジブリの『耳をすませば』があります。
あの作品を作られる際、宮崎駿さんは「海外のドキュメンタリークルーが日本の中学校を撮った」という想定で作られていったそうで、だからちょっと外国人目線の感じなんですよね。
それと、野島伸司さんが若林監督に「ドキュメンタリー的な映像作りをしてほしい」とお願いされたというエピソードが重なりました。自分の大好きな作品と、携わった作品のメイキングが重なって、しかもそのときに監督が自分の曲を聴いてくれていたなんてことまであって、感極まってしまいました。
――
今回の劇伴音楽制作はどんな経験になりましたか?
DÉ DÉ
僕のこれまでの作品でいえば、リズムがバキバキなものに綺麗なメロディを乗せるというのがスタイルだったのですが、今回はそれを取っ払ったガチのダブステップやドラムンベースにも挑戦できました。
クラブのデカいスピーカーでかけても遜色ないものを意識して作りました。
普段とは違う畑の方との仕事をすることで、世間が求めていることがより分かりやすく見えました。本当に死ぬまで勉強だなと思いました。
ミト
こんなにもダンスミュージック的なものを、カワイイ女の子を主人公としたアニメで提供できたことって、やっぱり画期的だと思うんです。
僕としては、お父さん目線で「ウチの息子、こんだけすごいんですよ」としっかり見せられるように、コントラストを出して丁寧に作っていった感じです。
DÉ DÉ
デビューした当時から、劇伴の仕事ができたらいいなと思ってはいて、そのときのディレクターにも「10年かけて少しずつ」と言ってはもらえていて、そのときは「自分の曲を誰かにオーケストレーションしてもらえたら」みたいに考えていたんです。そのときから12年、ものすごく達成感があります。
このサウンドトラックは僕にとって劇伴のお仕事のデビュー作でありつつ、自分のアイデンティティみたいなものまでも実現していただけたことに、とても満足しています。
  • ※1 ミト、松井洋平、伊藤真澄の3名で2015年9月に結成。TVアニメ『ももくり』、『彼女と彼女の猫-Everything Flows-』、『フリップフラッパーズ』、『アリスと蔵六』などの作品で劇伴を手掛ける。
  • ※2 電子音楽の大家。シンセサイザー奏者として冨田勲ほか、世界に多大な影響を与える。劇伴の代表作に『時計じかけのオレンジ』(1971年)、『シャイニング』(1980年)など。
  • ※3 ポップス・オーケストラで知られるアメリカの作曲家。クリスマスシーズンにかかる『そりすべり』や、運動会でかかる『トランペット吹きの休日』などで知られる。
  • ※4 音楽プロデューサー。ビートルズ『レット・イット・ビー』などを手掛ける。1960年代前半に開発した「ウォール・オブ・サウンド」と呼ばれる力強い音作りは世界に大きな影響を与えた。